“セックス”の時間だァッッ!!

………出だしは大変酷いが、個人的に『英雄*戦姫WWX』に登場するキャラクターのなかで、「そう来たか~」と思ったキャラクターはアジャセである。
『英雄*戦姫』シリーズにおけるキャラデザの大半は、大槍葦人氏が担っているが、その全てではなく、黒星紅白氏(代表作『キノの旅』)や原田たけひと氏(代表作『魔界戦記ディスガイア』)など、有名どころのイラストレーターさんがデザインしたキャラクターが何人か存在する。
『英雄*戦姫WWX』に至っては、オンラインブラウザゲームということもあって、新キャラを次々に出していかなければならない関係上、大槍氏ひとりにマンパワーを集中させることは出来ず、随分と非・大槍キャラが増えたような印象があった。
アジャセもまた、その非・大槍キャラのひとりで、キャラデザはポップキュン氏によるものである。
また、『英雄*戦姫WWX』は歴史上の人物を美少女化したゲームではあるものの、『Fate/Grand Order』(FGO)や『恋姫†無双』シリーズなど、類似のゲームが多く、そうしたゲームとの差別化を図りたいことから、ワシリーサやクアウテモックのような誰が知っているんだよと言いたくなるような変化球じみたキャラクターが増えていった。
アジャセも歴史上の人物としては「誰が知っているんだよ」と言っていいキャラの一人で、古代インド、それもブッダが生きていた頃に実在した人物ではあるものの、インド史に精通しているか、仏教に詳しいか、精神分析に詳しいか、あるいは手塚治虫『ブッダ』を読んだことがある人でなければ、ほとんど聞いたことがないような人物のはずである。
ここまで読んで、インド史は分かる、仏教も分かる、だけど「精神分析?」と思われた方もいるように思う。
精神分析の祖はジグムント・フロイトだと言われているが、このフロイトに師事し、日本に精神分析をもたらしたのは古沢平作という人物であり、古沢が着目したのがアジャセのストーリーだった。
古沢がフロイトのエディプス・コンプレックスに対して編み出したのが「阿闍世コンプレックス」という概念である。
『英雄*戦姫WWX』のアジャセに「未生怨」という技があるが、未生怨とは要するに「生まれてきたことに対する根源的な恨み」のことだ。
親が子どもにかける酷い言葉に「あんたなんか産まなければ良かった」というものがあるが、子どもからすれば「産んでくれと頼んだ覚えはない」わけで、苦しむためにこの世に産まれてきたとしか思えないことに対して、子どもが抱く根源的な恨みというわけである。
阿闍世コンプレックスについては、ここでは深入りしないものの(そもそもこれはエロゲの話だ)、もう少しだけお付き合い願いたい。
アジャセは「セックスの時間だァッッ!!」と高らかに宣言するものの、一体「セックス」が何なのか、実はよく分かっていない。

アジャセはセックスを「男女が互いの身体に蜂蜜を塗りあってそれを舐めたり拭いあう」儀式だと思っている。
当然、われわれはセックスを「子どもを作る」行為だと知っている。
しかし、われわれは自身の「出生の事実(両親のセックス)」を知らない。
多くの場合、両親のセックスというのは、「気持ち悪いもの」「見たくないもの」である。
この「両親のセックス」をフロイトは精神分析において「原光景」と名付けた。
アジャセのいう「互いの身体に蜂蜜を塗りあってそれを舐めあう」という行為は、幽閉されたビンビサーラ王(アジャセの父)に、韋提希(ヴァイデーヒー、アジャセの母)が自身の全身に塗った蜂蜜を舐めさせた史実に基づいている。
つまり、これは、まったく正しく「原光景」について述べているとも言えるのだ。

まあ、すべてを「すけべメタファーの化身」として解釈するノストラダムスとかいうフロイト大先生も顔負けな変態が『英雄*戦姫』シリーズにはいるんだけどね………。